
前回のコラムと同様に、法規制に関する引っかかりについて記しました。
省エネの努力は、未来への推進力となり得るのでしょうか。
運用時の重し、省エネ法
国が定めた枠組みである
「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」、
いわゆる省エネ法。
これは、運用時に適用される法律です。
ちなみに、新築・改修時に適用されるのは、
建築物省エネ法で、適用時期が違います。
省エネ法にて、
原油換算で年間1,500kL以上のエネルギーを使用する事業者は、
報告や中長期計画の策定などの義務を負い、
エネルギー消費原単位の継続的な改善が求められます。
これは、国内のおよそ20,000㎡を超えるような建物は軒並み該当してきます。
| 施設の タイプ | 面積の目安 1,500kL超 | 具体例のイメージ |
|---|---|---|
| オフィスビル | 約30,000㎡ 〜 50,000㎡ | 地方都市の県庁所在地にある「一番デカいビル」や、都心の30階建て程度の高層ビル。 |
| デパート・商業施設 | 約15,000㎡ 〜 20,000㎡ | 郊外にある「イオンモール」や、都市部の「伊勢丹」「三越」クラス。照明と空調の負担が大きく、面積が小さくても超えやすい。 |
| ホテル | 約20,000㎡ 〜 30,000㎡ | 宴会場やプールがある大型のシティホテル。24時間稼働なので消費が大きい。 |
| 病院 | 約15,000㎡ 〜 25,000㎡ | 400〜500床以上の総合病院・大学病院。 |
体力のある大口にがんばってもらう。
その考え方は理解できます。
しかし、そこには、悩ましい仕組みがあるのです。
率で削るという構造
率で削るという仕組みは公平に見えて、
実は初期条件の違いで、その難易度は大きく違います。
相撲取りが体重を落とすのと、
ボクシング選手が体重を落とすのでは、意味が違う。
余白のある削減と、
限界に近い削減。
竣工時から省エネを突き詰めてきた建物は、
そこから先の削減は急に重くなります。
省エネの余地を残して計画した方が
省エネ法を順守しやすいのです。
頑張った人ほど、次の挑戦が苦しくなる。
この構造が、挑戦をためらわせる空気を生んでいないでしょうか。
分母が決める射程
評価の軸である、エネルギー消費原単位は、
エネルギー使用量 ÷ エネルギー使用量と密接な関係を持つ値
で評価されます。
この「密接な関係を持つ値」という定義は、
施設面積、売上高、生産数量、走行距離など、
業種ごとにさまざまな分母が選ばれ、一見合理的に見えます。
しかし、
面積を選べば、空間の維持効率が問われる。
売上を選べば、稼ぐことが効率改善に直結する。
生産数量を選べば、量を出すことが評価を左右する。
分母を何にするかで、
「何が正義か」が変わる。
しかも一度定めれば、
実務上は簡単に動かせない。
数字の定義が、
その建物や事業の“物語”を決めてしまう。
しかし、どの分母を選んでも、
設備が消費するエネルギーそのものは変わりません。
ここに、制度の難しさがある。
分母は単なる計算上の値ではなく、
良くも悪くも、
計画の射程を決める軸となってしまいます。
省エネが「目的化」するとき
上記のゆがみにより、現場の議論が、
「どうやって設備を良くするか」
から
「どうやって評価の枠組みに合わせるか」
へと移っていくのではないでしょうか。
報告書、算定方法、整合性の確認。
もちろん必要な作業です。
ただ、それに多くの人的資源が割かれると、
本来行うべき更新や挑戦が後回しになる。
制度が目的化すると、
省エネは“我慢比べ”になってしまいます。
多角的な視点が奪われるとき
企業経営は、本来もっと立体的です。
この事業をまず伸ばす。
ここに投資することで全体が前に進む。
設備更新、研究開発、人材育成、
市場拡大。
省エネはその一要素であって、
すべてではない。
理屈の上では、
ある拠点で大きく改善すれば、
他の拠点をカバーすることも可能です。
しかし報告は拠点ごとのデータも含めて提出されます。
極端な偏りがあれば、当然説明が求められる。
すると現場は、安全策を選びやすくなる。
突出した投資で一気に改善するより、
全拠点をまんべんなく削る。
合理的な戦略よりも、
無難な均等戦略が選ばれやすい構造。
制度が、特定の指標を軸に強く縛る設計になっていると、
俯瞰的な戦略よりも局所的な数値合わせを優先せざるを得なくなる。
縛りによって視野が狭まり、無駄が増えてしまいかねません。
その積み重ねが、
日本を少しずつ内向きにし、
ガラパゴス化させていないか。
前に進むための制度が、
足かせになっていないか。
削減の先に、成長はあるのか
私は、省エネを否定したいわけではありません。
むしろ、もっと効く形で進めていきたい。
削減だけでなく、成長と両立する設計へ。
制度は、方向を示します。
その方向が「締め付け」ではなく「推進」になっているか。
そこを問い直し、推進力のある方向で
活用していければと考えています。
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